『ノア ・約束の舟』(6/13 全国公開)試写会に招かれて鑑賞してきたので、感想のエントリーです。

旧約聖書「創世記」(WikiPedia) 5〜10章に登場する「ノアの方舟(箱船)」の物語が映画化された作品。『ブラック・スワン』のダーレン・アロノフスキー監督。ノアを演じる主演は、『レ・ミゼラブル』のラッセル・クロウ氏。彼が3年半ぶりに来日し、プレス・報道陣各社も駆けつけた、舞台挨拶付きの豪華試写会でした。

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「ノア」の昨夜の試写会は、日本では制作関係者・マスコミ関係者以外で初めての公開だそうで、僕はその一般人約200人のうちの1人だったようで、光栄です。全世界で封切りになるのが、この日本が最後。すでに各国で大きな興行収益を収めており、様々な賞を受賞しています。

ハリウッド最大の雨、アイスランドでの撮影

ハリウッド史上最大の雨を降らせた大洪水のシーン。舞台挨拶にきたラッセル・クロウ氏は、トークの中で 「ニューヨークで1日12時間、冷たい雨に打たれることが一番つらかったね。監督のダーレンは水を温めてると言ったけど、そんなことに1セントも予算は使われていないはずだ。」と、会場の笑いを誘っていました。

また、ロケ地となったアイスランドは本当に美しかった。『LIFE!』でもアイスランドでのロケでしたが。この国には、一度行ってみたくなりました。

これまでの俳優人生で、最も大変な撮影だったよ。神に与えられた任務をこなす「ノア」を、僕がどう演じるべきなのか。考えすぎずシンプルでいることを心がけていたよ。

─ ラッセル・クロウ氏

一般招待者からの質問コーナーでは、「日本に来ると、いろんな日本酒にチャレンジしているんだ。このあとも行くよ。」と、気さくにトークを交わして、ファンの期待に応えていました。レ・ミゼラブルでは、ジャベール役を演じたラッセル・クロウ。声がシブすぎて、超かっこよかった。。。

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舞台挨拶では写真撮影タイムがあり、ぜひFacebookやTwitterに感想を投稿してね、という積極的なプロモーションでした。

ラッセル・クロウが演じる「ノア」と、養女にあたる「イラ」を演じる、ハリーポッターでお馴染みのエマ・ワトソンの2人は、ロケの合間は親子のような関係で、ブロードウェイのダンスレッスンに出掛けてリフレッシュしていたそうです。彼曰く、「ハーマイオニーと踊るのが楽しみだったから、大変なロケもこなせたよ」とのこと。

ノア 約束の舟の感想記事について

6月13日の公開前後、この記事を読んでいる方は、きっと感想や評判が気になるでしょうから、本記事はなるべくストーリーのネタバレを避けつつ書きます。ただ、前提情報なしで見たい方は、そのまま映画館へレッツゴーです。この映画はレンタルではなく、映画館でぜひとも見るべき映画ですから。

ラッセルさんは最後に、「この映画は、作る方も大変だったけれど、観る方にとっても大変な映画だよ。明日の朝起きた後も、この映画に込められたメッセージについて、考えていると思う。レ・ミゼラブルとは違うよ。映画を見たあと、俺のこと嫌なヤツだと思わないでね。」 と言い残して、舞台挨拶は終了。

どんな意味だろう? と思いながら、試写会が始まったのでした。

ノア 最後の舟

『ノア 約束の舟』の感想(一般人の主観です)

映画作品の多くは、たとえ評判の良い名作や、素晴らしい映像技術だったしても、非日常感を味わった当日のうちに恍惚感・高揚感・満足感のようなものは静かに消えていて、翌日からいつも通りの日常生活に戻っているものでしょう。

翌朝、目が覚めたとき、─ いや次の日の午後にまで頭から離れず、余韻が感じさせるような映画は、なかなか無いと思います。この映画は僕にとって、そんな作品でした。「ノア」自身も、試写会が始まる前の舞台挨拶でそう言っていたように。

僕の個人的な感想として、この映画の見所とは、「ハリウッド史上最大の雨」を降らせたり、大洪水をVFX技術で表現した「迫力のある映像」なんかではありませんでした。さらには、旧約聖書「創世記」に記された、ノアの箱舟伝説を初めてスクリーンで映像化して、そのシナリオを純粋に楽しむものでも、ありませんでした。もちろん優れているのだけど、別の視点が強烈過ぎて、もはや映像の迫力なんてどうでもいいと。

予告編、ポスターでは「壮大」「スペクタクル巨編」と謳っていますが、それはハリウッド映画的な大衆向けの広告表現に過ぎず、この映画が訴えかけてくるものは、視聴者個人にとってはとても繊細な部分だと感じられました。それはすなわち、観る人を選ぶ映画でもあると、言えるかもしれません。

観客に対して、強烈に問いかけてくるもの

この作品は、我々が生きている世界の「対称性」について、観客に対して強烈的に、幾度となく問いかけてきます。 ときには役者が語っている言葉によって直接的に。ときには音楽や人々の表情、そして動物たちの仕草からメタファーとして。

対称性とは、ある変換に関して不変である性質です。この世界には、「光」があるから「影」がある。「昼」があって「夜」がある。「生」があって「死」がある。「真」があるから「偽」がある。「過去」があり「未来」がある。「自分」の存在を確かめられるから「他人」の存在を知ることができる。

社会人類学者で構造主義の祖とされるレヴィストロースは、神話についての研究をする中で「世界中の神話の物語には共通する構造がある」ということを主張しています。それは、善悪、悲しみ・喜びの感情など、ふたつの対立する事柄を補い合う、隠れた数学的構造が、神話のストーリーを形作っているという説です。

現代社会に置き換えると、人は「不幸だ」と感じた過去の経験があるからこそ、「幸せ」ということを感じることができる。ノアの方舟には、”汚れのない動物たち” は全て、雄と雌の「つがい」として乗り込んできますが、それがある種のメタファーとしても描かれている。

映画の終盤は、特にノアの心境変化について非常に見応えがあります。人間は自我(Identity)を持ってしまった。「正義」があって、「悪」がある。では、正義とは何を定義するのか? 正義とは、解釈の違いでは悪でもなるのか? 自然の摂理(神の意志)を尊重するとすれば、自我を持った身勝手な人間は、悪なのか? しかし神はそれさえも分かっていて、人間を作ったのか? ─ ノアは神に尋ねるが、答えは得られません。

「人は、誰しもが悪を持っている。」

方舟が完成し、ノアの心情描写が激しく移り変わる中で、ノアの妻であるナームの言葉が、とても印象的でした。それ以上に、心に残った言葉は、ノアがイラに対して最後に言ったシンプルな一言。きっと多くの観客の心に刻まれていますが、これ以上はネタバレになるので皆さんぜひ、映画館で見て下さい。

世界は最初、何もなかった。神は1日目に、暗闇の中で光を作り、昼と夜ができた。そして2日目に、神は空(天)をつくった。3日目には、神は大地を作り、海が生まれ、地に植物をはえさせた。4日目は、太陽と月と星をつくった。5日目は、神は魚と鳥をつくった。6日目は、神は獣と家畜をつくり、そして神に似せた「人間」をつくった。7日目に、神は休んだ。

─ 旧約聖書『創世記』天地創造

「ノア 約束の舟」の評判、評価・評論を正しく行うためには、宗教学への知見や、あるいは科学的アプローチからの天文学や量子学といった観点からも解説が必要なのかもしれません。僕はそうした学問的なバックグラウンドは持ちあわせていないので、あくまでも一般人としての感想です。

「自分とは何者なのか?」「世界の摂理とは?」─ 映画を見ている自分の胸に手をあてて、何度も反芻させられる。それが翌日まで、じわじわと続く。久しぶりに、表面的な感動や映像美への賞賛などは全て忘れて、心の奥底まで伝わってくる映画でした。

『ノア 最後の舟』は、2014年6月13日(金)公開です。

キャスト

  • ノア:ラッセル・クロウ(少年時代:ダコタ・ゴヨ)
  • ナーム(ノアの妻):ジェニファー・コネリー
  • トバルカイン:レイ・ウィンストン
  • イラ(ノアの養女):エマ・ワトソン
  • メトシェラ:アンソニー・ホプキンス
  • ハム:ローガン・ラーマン
  • セム:ダグラス・ブース
  • ヤペテ:レオ・マクヒュー・キャロル
  • オグ(堕天使):ケヴィン・デュランド
  • レメク:マートン・チョーカシュ
  • シェムハザ:ニック・ノルティ
  • アザゼル:フランク・ランジェラ

予告編・特報

 

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