これ以上ページをめくることが、自分にはもったいないとさえ感じる本に、ときどき出会う。大好きなアーティストの新譜がリリースされたとき、聴き終えるのが惜しいがために、なかなか聴き始められないもどかしさを、ときどき感じることがある。

読んでしまったり、見終わってしまったり、体験し終わることへのある種の「淋しさ」が、出会いには常につきまとっていた。

子供のときは、特にそうだったように思える。ときどき連れて行ってもらった家族旅行は、田舎で生まれ育った僕にとってわくわくするものだったけど、出発の前から、すでに「帰ってきた自分」―言い換えれば、楽しみを消化し尽くしてしまった自分の姿が、脳裏にふっと浮かんでしまうのだ。そこには淋しさと期待感が入り混じったような複雑な感情があった。僕は、そういう子供だった。

そして歳を重ねるにつれて、そう思うことが、少しずつ減ってきた。

本も音楽も映画も、繰り返し見たり聴いたりできる。でも、作品や体験との出会いの瞬間は一度しかなく、脳裏に焼き付けようと、逃すまいと、そのときの一瞬一瞬を噛みしめようとする。回を重ねていくことで深みが増していくこともあれば、一度目しか感じられない美しさもこの世界にはある。

二度目ではなく一度目の出会いその瞬間を愛しく思いたくなるような、言葉や、音楽や、人がいる。

ニュージーランドに住む四角(よすみ)夫妻も、僕にとってそういう人だった。この記事は、ニュージーランドの北島に位置する、ある湖畔沿いの夫妻の自宅から ─ウッドデッキのチェアに腰掛け、暖かい日差しと、やわらかな風にあたりながら─ 書いている。

南半球は夏で、日本より4時間早く時が進む。到着した晩は、とても美しい夕焼けに歓迎された。これから2週間ほど、ニュージーランドに滞在する。2010年夏のインドの旅がそうであったように、また旅のことを少しずつ記録していこうと思う。ほとんどのことが、僕にとって人生で初めての出来事だろうから。

※ 上の写真はニュージーランド北島の街、Tauranga、Mt.Maunganuiの山頂からの景色。地球が丸いことが目でわかる。

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