アメリカで既にベストセラーとなっている書籍、『Moonshot! – 世界を変えるビジネスはこうつくる!』が、Amazonでの発売予定日(今日 2016/02/24)の前日に青山ブックセンターで見つけたので、早速購入して読んでみました。
著者は、あのペプシコーラのCEOからスティーブ・ジョブズに引き抜かれ、AppleのCEOを務めたジョン・スカリー。現在上映中の新しいほうの映画『スティーブ・ジョブズ』では人間関係にフォーカスしたシーンで度々登場しています。彼が、ジョブズ亡き今となって書く考察本にとても興味があり、Amazonで以前から予約をしていました。本書で彼は、自身の経験に基づく提案や、現代で起こっている人工知能、データサイエンス、IoTなどの新世代の技術に触れ、コンピュータの進化について「生産性を上げるためのツール」から「知的アシスタント」への変貌について、考察を通して明らかにしていきます。そして「適応型イノベーター」という起業家の性質を問いかけています。
ジョブズ視点で描かれるAppleの物語では、どうしても役者として「敵」の立場として描かれてしまう彼ですが、現代(2015年、2016年)何に興味を持っているのか、それを知ることができただけでも面白く読めました。サプライチェーンの分野、ヘルスケア領域を8年追いかけており、Apple以後では弟が共同創業者として立ち上げた金融サービス「イントラリンクス」がNY証券取引所に上場したエピソードや、スペイン人の友人の一人ハビエル・ウリベ・エチェバリア氏が開発した、Siriよりも優れたスペイン語に特化した音声アシスタント機能についてなど書かれています。
ジョン・スカリー視点から書かれたAppleの物語
本書の構成は、1982年11月のジョン・スカリーの振り返りから始まる。Appleがまだ5億ドルの売上高しか無かった頃、当時27歳のスティーブ・ジョブズと初めてあった日の出来事である。ジョブズ本やアップルの歴史に関する考察文献は山程あるが、彼の視点で描かれたシーンは今まで少なかった。
著者は、本のタイトルでもあるムーンショットについて「それに続くすべてをリセットしてしまう、ごく少数の大きなイノベーション」と定義し、マイクロプロセッサの発明やワールド・ワイド・ウェブの登場、AppleによるiPhoneなどを例にあげている。もともとムーンショット(月への打ち上げ)という言葉は、1961年にジョン・F・ケネディ大統領がおこなった演説が初出とされている。
新しい起業家のタイプ「適応型イノベーター」
顧客の経験価値に重きをおくというスタイルはすでに一般的な考え方(顧客第一、ユーザーファーストなど)であるが、その上で前例のないレベルでの品質を持つ顧客の経験価値を提供(従来の10倍以上の良いものを作ろうとしている起業家)を、著者は「適応型イノベーター」と呼んでいる。楽観的で意欲的な、才能を持ち合わせたごく少数が先頭を走って組織を作り、それに魅了された人々が、未来を変える企業に力を貸す ─ 今の時代は10億ドル企業を生み出すに最適な時代だと問いかけている。本書では、『適応的イノベーターにとって重要なものはビジネス・プランではなく、顧客プランだ。』というメッセージと共に、適応型イノベーターになるための考え方やヒントを提示している。
本書は、「破壊的イノベーション」について記した名著『イノベーションのジレンマ』と合わせて読むと、著者の主張がわかりやすいかもしれない。
本書でよく多用される「適応型」というキーワードは、日本語に訳するとやや違和感を覚えるかもしれない。元はアメリカの作家、未来学者のアルビン・トフラーが1985に記した「The Adaptive Corporation」(未来適応企業)から来ている。(※アルビン・トフラーは「技術的特異点」や著書『第三の波』で有名ですね) 本書では新世代の適応型企業に必要なシステムのフレームワークを提示し、急成長しているビジネスの実例から、「革新的なビジネスをどうやってつくり上げるか?」という問を主眼においた考察本である。
適応型イノベーターの実例としては、スティーブ・ジョブズは例外的だとし、ウォズ、ゴードン・ムーア、ボブ・ノイス、アンディ・グローブなどを上げている。現代ではジェフ・ベゾス、イーロン・マスクであると。適応型イノベーターは、自身の専門性とテクノロジーを組み合わせることで、革新的なビジネスを今までになく生み出していく存在である。
以下、自分の備忘録を兼ねたメモの形式を取りつつ書評とします。
押し寄せるテクノロジーの4つの波
単に4つの見出しだけ見ると、「なんだ、どれも既に議論され尽くしているものではないのか?」と思うかもしれないが、評論家や科学者ではなく、AppleのCEOを勤めて、様々な出来事の当事者でもあったジョン・スカリー氏自身による考察というところに読む価値がある。
- クラウドコンピューティング
2008年には800エクサバイトのデータが世界にあると推測された。1エクサバイトは、1枚のDVDにすべての情報を書き込みジャンボジェット機の客室でいっぱいにした時、1万5000機の計算。これが2020年に「4万エクサバイト」(ジャンボジェット機=6億台)に達すると予想されている。ヒューレット・パッカードCEOのメグホイットマンは先、巨大なクラウドデータセンターを「ザ・マシン」という名の冷蔵庫サイズのボックスに縮小する方法を開発したと発表。IBMはケタ違いのデータ処理能力を実現するために、グラフェンなどの新しい素材を使う技術に30億ドルを投資すると発表。 - IoT(モノのインターネット)
シスコCEO「2020年代の初めには、400億デバイスがワイヤレスでつながっている」ジョン・スカリーがシリコンバレー(Apple)で現役時代は、マイクロプロセッサの黎明期だったが、今はセンサー時代の幕開けであると名言。センサリングした光、音、熱、身体の動きなどのデータの転送は、やがてマシン・ツー・マシンでも行われる。 - ビッグデータ
体系化されていないデータを相手にするアプローチ、データサイエンスの活用は「行動を決める要素と、それに影響を与える要素を見抜く」こと。 - モバイル機器 – ジョン・スカリー体制時代のPDA、ニュートンの事例を元に、現代のモバイル機器(スマートフォン)についての考察。センサリングとも絡め、パーソナルなデジタルアシスタントは、これから無限の可能性があると示唆。
目次
はじめに
- 顧客主導へのムーンショット
- ムーンショットが世界のあらゆる業界に変化をもたらす
- 新しいタイプの起業家「適応型イノベーター」
- 適応型企業のフレームワーク
- 適応型ミドルクラスの時代
- 適応型ミレニアル世代が革新的なビジネスの担い手
- 革新的なビジネスをどうやってつくりあげるか
1.ムーンショット!
- パーソナルコンピュータ – 発明の天才・ウォズ
- ウォズの発明の波及効果
- 押し寄せるテクノロジーの4つ波
- 現代のムーンショット – 顧客が力を持つ
- ネットワーク効果
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なぜ「高い志」が必要なのか
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なぜ、今10ドル規模のビジネスを目指すべきなのか
- 経済環境が示す適応型イノベーターの出番
- 従来型ビジネスの崩壊
- ヘルスケア業界の崩壊
- 教育の崩壊
2.ミドルクラスの変容
- アメリカでは何が起きているのか
- ミドルクラスを襲った経済危機
- 大変革の中心にあるもの – 仕事を再定義する
- 新しい適応型ミドルクラス
- 新興市場で急増するミドルクラス
- アリババに代表される中国の活況
- 甚大な影響力を発揮する新生インド
- 台東するミドルクラスの未来
3.いかに10億ドル規模のビジネスのコンセプトをつくるのか
- 10億ドル規模のビジネスへのイントロダクション
- 10億ドル規模の問題を解決する
- 「もっと良い方法が必ずある」
- B2Bにおける「もっと良い方法」
- 価格を破壊 – 隠れる場所はない
- 価格破壊という破壊槌
- 抜きん出た顧客の経験価値を提供する
- 顧客の経験価値を中心に据える
- 経験価値マーケティングの威力「ペプシチャレンジ」
- 顧客の経験価値を測る
4.成功を導く強力なツールとは?
- 一流の準備をする
- 正しい質問をする
- イノベーションは聞くことから始まる
- 専門分野を持つ
- ヘルスケア大手が新規分野をつくる
- 徹底的に分析する
- 正しい人材をバスに乗せる
- 年齢は強みである
- 新しい人材ビジネス
- ズーミング
- 未来から逆算する
- 10倍良い解決を目指す
- ビジネスプランは時代遅れ
- 逆算プランニングの方法
- 困難からの方向転換
- リスクを管理する
- プランBを用意する
- 失敗に対処する
- わたしの失敗 – ニュートン
- ニュートンのその後
- わたしがアップルを解雇された理由
- 失敗が許されるアメリカ社会
- メンターを見つける
- ベビーブーマーへのアドバイス
- ムーンショット
- 適応型イノベーターの時代
- 適応型イノベーターが知っておきたい6項目
- 革新的なビジネスをつくりあげる10原則
- 数年後に目を配る
『Moonshot! – 世界を変えるビジネスをはこうつくる』ジョン・スカリー