「BOOK LAB TOKYO」(ブックラボ トーキョー) という新しい書店を、渋谷・道玄坂に 6/25(土)オープンしました。蔵書数1万冊が並び、美味しいコーヒーが飲める42席のカフェ空間を兼ね揃えています。ここは、古本屋でも図書館でもなく、新刊が売られている「本屋さん」です。街の本屋がどんどん潰れている中で、スタートアップ経営者の24歳(当時)の僕が企画を立ち上げて、本屋という空間をプロデュースすることになったわけですが、1年前はまったくも予想もしていませんでした。オープンしてからの2週間、本気で最高のお店をつくりつづけるために、スタッフと一緒に頭と体をフル稼働させていました。
こちらの記事で、写真多数使って取材していただきました
▼渋谷道玄坂にオープンする書店「BOOK LAB TOKYO」に行って見た! – webDICE
http://www.webdice.jp/dice/detail/5171/
約1万冊の蔵書のうち半数が、「つくるを考える」「つくる人を応援する」というコンセプトで選書をしています。具体的には、技術書などテクノロジー系の本だけで約1,000冊あり、デザイン本、写真集、自然科学などサイエンス分野、建築、デザイン本といった専門書のジャンルから、日常生活における「料理」など、”つくる”というコンテクストを広義に捉え、約4,000タイトルを選書しました。1,000円の料理レシピ本の棚から、ふと目をやると3万6000円のゲノム解析学の本があったりと色々おもしろいです。
この書店には、かなり本格的なコーヒースタンドが併設されており、42席の座席があるカフェとしての機能も半分持っています。いろいろと周辺を歩いてみたところ、道玄坂には平均的なカフェやランチスポットは多数あるのですが、コーヒーの品質では負けていないと分かり、8月以降にはモーニング・ブランチの時間帯(通常、本屋さんには人が少ない時間帯と言われます)を狙っていきたいと思っています。
ソファ席やベンチシートには、お客様が使える電源のほかに、USBコンセントなども付けています。iPhoneなどスマホ端末に直接ケーブル挿して、急速充電が可能です。
スタートアップ書店
経営難だと言われている書店ビジネスを、スタートアップ企業のやり方(週次での選書会議・様々な指標分析をふりかえりMTGのように社内共有したり、大切なことは何か考えてKPIを決めたあとはPDCAサイクルを回したり、新たな価値提案によってお客様の体験を最高にしていくことを考え続ける)で、どういう結果が出せるか挑戦しています。
ブックカフェっていうのは僕の知りうる限り、言い方が悪いかもしれませんが、本を見世物(集客要因)にしてコーヒーで利益を上げているんですよね。今回のプロジェクトは、逆転の発想とまでは言わないけど、まずこの考えを辞めようと思って、「本とコーヒーどっちでも勝負する」という二兎を追うもの二兎とも得たいという、両方にこだわりました。今回、書店を始めようと思って事業計画を立てたところ、どう頑張っても赤字になるんですね。事業計画の段階で赤字というのはサステナブルではない。どうすれば本屋が生き残れるか、異業種参入する上で様々な業態を考えてみた結果、たどり着いた答えはやはり、軽飲食との複合店ということになりました。ただ、ここを単にブックカフェと呼ぶには勿体ない。僕はマスコミに向けた取材ではブックカフェという言葉は使わずに、「コーヒースタンドが併設された書店」という表現で統一しています。コンセプト型の書店としてお客様に定期的に来たくなる本屋作りを目指しつつ、コーヒーの味やカフェ空間の居心地の良さのために、近隣のオフィスで働いている方にリピーターになってもらい、土日にはイベント等でも「わざわざ来たくなる場所」として訪問いただいて、そんな空間にある1万冊は情報感度が高い人たちのために選書を行っているため、偶然買いたい本に出会えるような場所であれたらと思っています。
本屋とコーヒースタンドが同じ場所にあるけど、ここはブックカフェとは少し違うものです。専門書も多いため、一部の見本紙などを除いて、会計前にテーブル席へのお持ち込みは基本的にできないようにご案内をしています。これは出版社とのコミュニケーションや交渉の中でも、重要なことであり、業界としては歓迎される取り組みでした。安易にブックカフェのモデルをコピーして、本を作っている人たちを尊敬できなければ、それこそ店のコンセプトである「つくる人を応援する」とは矛盾してしまうのではないか? そういう結論に至りました。業界慣例でやっている消費者の短期的メリットを、「あえてやらない戦略」というのも一つのチャレンジです。
40万冊から5000冊をキュレーションする作業
後述しますが、このお店は立ち上げの目的がそもそも営利追求のためのものではありません。例えば、2,000円以上の本をお買い上げ頂いたお客様に、600円のカフェラテやハンドドリップ・コーヒーを無料でご提供するというサービスがあります。利幅が22%僅かという出版小売業態と、回転率・客単価を上げるべきだという飲食店の常識を完全に無視しています。どうなるかまだ判断するには時期尚早ですが、お客様には好評いただいています。この辺りのビジネスモデルは、しばらくPDCAサイクルを回しながら考えていきます。少なくともテナント契約満了と、東京オリンピック開催の2020年までは、ちゃんと毎月黒字を出しながらやっていくつもりです。
選書コンセプトは先程言った通り「つくるを考える」。この方針に従って、日販さんから頂いた約40万タイトルのデータと2週間にらめっこして、店内の初期在庫となる5000タイトルを選書しました。これは自分の人生の中で、過去最大のキュレーションという行為だったように思います。「◯◯な人にお勧めの10冊」みたいなブログ記事、今なら何本でも書けそう。笑
「BOOK LAB TOKYO」のコーヒースタンドでは、高品質なコーヒー豆を新鮮な状態で、ハンドドリップの形態で1杯ずつ丁寧に抽出して提供しています。5種類ほどのシングルオリジンのスペシャリティコーヒーの豆を、時期ごとに変えながら店頭に出しています。代官山に新しい店舗ができる「私立珈琲小学校」の吉田先生に、厳選されたロースターさんを教えていただいたり、キッチンの設計からスタッフの研修まで、全面的に監修していただいています。
コーヒースタンドは、ハンドドリップのほか、ラ・マルゾッコのエスプレッソマシンを使っています。
BOOK LAB TOKYOには「書く人」「描く人」のための席があります。執筆、プログラミング、イラストなど描く・書くに関することであればご利用頂ける特別なスペースです。
場所は、ベンチャー密集地の渋谷・道玄坂「新大宗ビル」の2F。新大宗ビルは、HiveShibuya、East Ventures、コロプラネクストのVC支援先の企業、TECH::CAMPの渋谷教室など、数多くのベンチャー企業が入っています。もともとはサイバーエージェントのAmeba Studioがあったテナントを改装し、書店に生まれ変わりました。
6名のワークショップから、80名規模までの貸切イベントにも対応しているお店で、おかげさまでオープン以来、たくさんお問い合わせいただいています。通常イベント以外にも、行政・自治体の方からテレビ局で収録場所としてのお問い合わせまで様々です。
ここ数年間で、たくさんのコンセプト書店は増えましたが、どちらかというと「カルチャーの分野」「ライフスタイルの提案」「おとなのための消費喚起」を全面に押したものが多い印象を感じてきました。 ─ 渋谷区に住み、そして渋谷で働くひとりの25歳の起業家として、知らない本と出会い、クリエイティビティが刺激されるような本屋さんを作りたい、と強く思うようになりました。初めて何かを作ったときに感じた心の感動を、いつでも思い出せる場所であるような空間です。自分たちのオフィスで何冊もの技術書やデザイン本をまとめ買いしていたら「これ、本屋さん始めたほうが早いんじゃない?(苦笑) 」そんなやり取りもありました。賛同していただいた外部の投資家、エンジニア、デザイナー、クリエイター、アーティストの手によって、実際に書店という形で実現することができました。
2週間で1000杯以上のコーヒーと、300冊くらいの本を売って、ようやく筆を執ることができる感じになりました。あっという間の2週間でした。一番忙しかった頃の数日間の生活スタイルは、朝7時30分に鍵を開けて朝番スタッフと一緒に準備をし、10時かお昼過ぎにLabitオフィスに移動してアプリ開発の仕事やMTG、夜20時に書店に戻ってきて24時に締め作業。1時過ぎに帰って寝て、次の日また7時に起きるといった感じでした。
2016年5月に発表した店内イメージCG
オープン1ヶ月前からアルバイト求人サイトに掲載したところ、当初想定していた数の6倍、300名弱の応募がありました(途中で掲載中断するほどでした)。1週間くらい毎日30人ずつと面接していて、オープン時には13名のスタッフでスタートを切ることができました。
オーナーの嗜好が全面に出ている小さな本屋でも無く、とはいえ沢山の本が探せて話題書がどっさり積んである大型書店でもありません。ここは、渋谷の街(道玄坂)を行き交う人たちにとって、1年後には、ごく当たり前のように存在している街の中型書店であってほしい、と願っています。昨年1年間で発刊された新刊のタイトル数は、なんと76,445タイトルもあるのです。はてブのホットエントリ記事どころではなく、毎日200冊以上も新しく出版されている膨大な本の中から、情報感度の高い渋谷エリアの皆さんに手にとって頂きたい本を、毎日棚に並べていきます。
この書店をプロデュースすることになった直接のきっかけは、Labit創業時からVC・エンジェルとして支援していただいたネットエイジの西川潔さんです。Labitの新規事業というわけではなく、西川さんとの個人的な関わり、打ち合わせの中から生まれたプロジェクトになりました。西川さんは1990年代後半に「渋谷ビットバレー」という言葉を生み出し、世代が一回りした現在もなお、好奇心を持ち続けて若い起業家やクリエイターを応援している個人投資家です。彼があるとき発した「普通の投資以外のことで、何か若い人やクリエイターの役に立つ良いアイデアないかなぁ?」という質問が、このプロジェクトの全てのきっかけとなりました。僕はいくつかのプランを提案したあとに「いま大規模な再開発が進んでいる渋谷に、新しい本屋さんを作るというのはどうですか?」と尋ねました。数分後には、どんな本屋さんだったら、満足してもらえるものになるか?という二人のディスカッションが始まり、毎月1回会うときに少しずつ企画を温めていたのです。西川さんからは出版業界の関係者を招いたオープニングのレセプションパーティに言葉を寄せて頂き、「この出版不況のご時世に書店を始めるなんて、クレイジーとしか思えない」と会場から笑いが溢れるコメントを頂きましたが、「でも時代の流れで何かを変えるのは、普通は誰もが考えないような、そういう気持ちなんです」と締めて頂けました。身が引き締まる思いです。
もちろん起業家としての仕事も続けています。今後は書店には週に3-4回くらいの頻度で、2-3時間ずついることになると思います(徒歩10分ちょっとなので)。Labitのヘッドクォーターは2014年から桜丘のオフィスにあり、2期連続のM&Aの経験を経て、この3〜4ヶ月くらいで7名の新メンバーが増えました。まもなく公開を予定している本特化のCtoCフリマアプリ「ブクマ」の開発・運営体制は、同じ本繋がりということで、BOOK LAB TOKYOの事務所スペース内にデスクを置いて、間借りベンチャーっぽい雰囲気から一気に駆け上がりたいなぁ、と考えています。今のLabitには、カナダ人が2人いて、11歳からプログラミング中毒のエンジニア1人、Apple Storeで6年働いていたデザイナー1人がいます。彼らのキャラクターは面白く、会社に新しい風を吹かせてくれました。
書店はテナント事業部という形で完全に独立採算する形をとっており、全体で25名くらいの所帯になりました。ゲームエイトをGunosyに売却したのが昨年12月で、そのときグループ全体で35名くらいから一気に5名まで減りましたので、その後の6ヶ月間でまた同じ規模感のチームになってきました。
気づけば、2012年10月のリクルートからのファンディング以降、Labitは資金調達をしてなかったです(M&Aで資金を増やしてきました)。資金調達額よりも今年払った法人税のほうが多いじゃんみたいな状態になってしまいましたが、この夏にリリースする2つの事業(1つはブクマで、もう1つはまだ未発表)で1桁上の成長をしたいと思っています。
7/14(木)19:00〜 (直近ですが!) 「BOOK LAB TOKYO – 書店スタートアップの舞台裏」というイベントを実施予定です。よかったらぜひお越しください。
BOOK LAB TOKYO 公式サイト http://booklabtokyo.com
BOOK LAB TOKYO Twitter @BOOKLABTOKYO
【2017/02/01更新】以下の記事を更新しました。